IE11(Internet Explorer11)のサポート終了がなぜニュースに?

2022年6月16日(日本時間)をもってIE11のサポートが終了となります。
これがなぜニュースとして取り上げられるのか、IEと戦ってきた開発経験20年超の生き証人が独自解説します。

IEの盛衰

スマホのない時代はWindowsとIEの寡占

2008年のiPhone登場前は、通信設備の問題で、ホームページはパソコンから閲覧するのが一般的でした。
パソコンは当時も多数派Windows・少数派Macというシェア構造です。
そのWindowsの開発元Microsoftがブラウザ(ホームページ閲覧ソフト)として自社開発していたのがIEです。
Netscapeというウェブ技術の基礎を作ったブラウザを圧倒的企業力で潰し、ダントツのシェアを誇りました。

Googleが動く

検索サービスでシェア1位となったGoogleは、IEに変わるブラウザとしてChromeを2008年にリリースしました。
動作の重さやセキュリティの懸念などIEの問題を解消することで、年々シェアを伸ばしました。

スマホの普及でネットの主役が交代

スマホが普及して通信設備が整い、スマホ時代に変わります。
スマホはApple(iPhone)とGoogle(Android)の2社が主役となり、Microsoftは取り残されました。
iPhoneはSafari、AndroidはChromeと、IEではないブラウザを標準として搭載し、ネット利用者全体におけるパソコンとIEのシェアが減少しました。

MicrosoftがIEを投げ出す

IEは11が最終バージョンとなり、IEの問題を認めたMicrosoftは新ブラウザEdgeをリリースします。
その後、自社開発を諦めてChromeの技術(Webkit)を取り入れました(Edgeは実は初代が自社開発、以降はWebkitと中身が大きく異なっています)。
これにより、Microsoftはブラウザ戦争に完敗し相手の軍門に下りました。

尚、SafariもWebkitという同じ技術を利用しており、現在のブラウザの主流です。
ブラウザ戦争という企業間の覇権争いは、利用者である我々には百害あって一利なしだったため、Webkit主流は歓迎できる状況です。

デッドラインが引かれ、皆がIEを締め出す

開発者の頭を悩ませてきたIEの開発が終了し、IT大手のサイト・サービスはIE11の非推奨・利用不可の措置を取ります。
官公庁はEdgeを推奨ブラウザに加えて、代替えに備えました。
IE11のサポート終了日が2022年6月16日に決まり、官公庁はこれ以降IE11を非推奨・利用不可にする方針となりました。
国内外の開発者・ウェブ系サービスなども、こうした動きに歩調を合わせ、ここ数年でIEの締め出しが進んでいます。

IEサポート終了サービスIEサポート終了時期
Youtube
2020年頃
Facebook
2019~2020年頃
Twitter
2021年8月
Yahoo!Japan2021年9月7日(非推奨化)
確定申告サービス・e-Tax
2022年6月17日

IEの何が問題だったのか

独自仕様が多い

ホームページ・ウェブシステムはざっくりと言えば、土台となるHTML、見た目を設定するCSS、動きを与えるJavasriptから構成されます。
IEはHTML・CSS・Javascriptのいずれでも独自の仕様があり、長年開発者を悩ませてきました。
例えば50%の透過を表現する際はCSSを以下のように設定します。
opacity:0.5;
filter:alpha(opacity=50);
前者がIE以外、後者がIE用の設定です。このように、IEのためにコードを追加したり処理を分岐する手間を開発者は長年負担してきました。

バグが多い

「IE バグ」で検索すると無数の情報が表示されます。
IEはバグが多く、放置されている問題も多く存在します。
IEのバグ回避のためだけに、無意味なコード(CSSのzoom:1;など)を設置したりと、開発者の時間を浪費してきました。

バージョンによって表示が異なる

IEはバージョンが多く、それらが独立して存在するというカオス状態でした。
最盛期では、IE6・IE7・IE8・IE9・IE10・IE11が併存し、それぞれHTML・CSS・Javascriptの有効・無効が異なり、更に異なるバグを持つ有様でした。

IEは複数バージョンを同一パソコンにインストールできず、テスト用の別バージョン保持のために古いパソコンを捨てずに持っていた経験があります。
自ら招いた不可逆の混沌に懺悔をするかのように、Microsoft自身が複数バージョンを切り替えられる開発者向けの機能をリリースしたこともあります。

問題が多いのにシェアが高く地位もある

このように多数の問題を抱えながら、Windowsの標準ブラウザという優位から長年に渡ってシェア1位を誇りました。
シェアの高さから、確定申告など官公庁のウェブアプリを唯一利用できるブラウザになるなど一定の地位が与えられました。
開発者はIEを無視することはできず、独自仕様・バグ・バージョンの併存と不毛に戦っては消耗を続けました。

ウェブの可能性の芽を摘む

Chrome・Safariなどのブラウザでは新機能が増え、ホームページやウェブアプリの新たな可能性が開かれました。
しかし、IEのシェアが高いのにIE未対応の新機能を導入することは、多数派を無視する暴挙を意味しました。
IEが足枷となり、ウェブの新たな可能性を開けないという生殺し状態が続きました。

さようならIE

IEは開発者を悩ます残念なブラウザで、そのサポートが2022年6月16日に終了することでフェードアウトします。
ウェブの開発環境はより平和になり、ウェブの可能性はより明るくなるでしょう。
一時代を作った巨人の最期は、「主役級の悪役の最期」に似て、ちょっとした切なさもあります。